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創業から600年を超える堺打刃物の伝統技術を守りつつも、時代の変化に合わせて進化し続ける高橋楠。「世界中の食文化を、料理の力で前進させる」という大きなビジョンを掲げ、「世界中で、よりよい料理を志向する人の最高のパートナーになる」というミッションのもと、日々ものづくりに邁進しています。
ーーまずは、堺打刃物業界の現状について教えてください
かつては30名以上の鍛冶師が存在した堺の地、現在ではわずか10数名にまで減少しています。このままでは、20年後には鍛冶師がわずか5名ほどになってしまうかもしれない――。そんな危機感を感じる一方で、「本物の堺包丁」を求める声が日本国内のみならず、世界中で急増。特に海外からの評価や需要は年々高まりを見せています。
職人の数が減少するなか供給体制が追いつかず、需要に応えきれない業界の課題。「伝統産業を未来につなげたい」という強い想いを胸に、高橋楠は新たな挑戦を始めました。
何よりも、職人を増やすには資金が必要です。そこで私たちは、プロの料理人向けに特化していた堺包丁を、一般のご家庭でも手に取りやすくし、資金調達と認知度向上を同時に実現しよう――。という発想のもと、「Makuake」というクラウドファンディングで時代に合わせた堺包丁の販売を行いました。その結果、目標対比589%を達成。その後、堺市が選定する「堺キッチン」第一回の商品にも認定され、さらにはG7大阪・堺貿易大臣会合の記念品にも選ばれるまでに至りました。
ーーG7大阪・堺貿易大臣会合の記念品に選ばれるのは大変だったのではないですか
私も詳しい選考プロセスは知らないのですが、恐らく吉村大阪府知事もしくは大阪府庁から堺市で手土産を選定するように指示があったのだと思います。堺市は、外部の専門委員会に選定を委託したと聞いており、最初は伝統工芸品や、地場産業の商品、堺市長肝入りプロジェクトの堺キッチンの過去の選定品を含め、多数の商品を候補として挙げ、そこからまずは5品選定したと聞いています。この時点で、弊社に連絡があり、この日までにこれだけ用意できるか確認がありました。そのときは、「自身でアピールもできないし、宝くじに当たるような話だな」と思っていたのですが、後日、「貴社の商品が最終選考で選ばれました!」と連絡があり、大変驚いたのを覚えています。弊社は卸売なので、包装などはしないのですが、包装の紙材の選定も含め、おもてなしの心をもって、堺市に納品しました。あとで聞いた話だと、堺市の職員の方も、プッシュしていただいたようで(効いていないですけどね、と笑っておられましたが)、新しいことをやると特に日本では批判にさらされますが、一方で、本当に多くの人に支えていただいていると実感しました。
ーー「本物の堺包丁」と呼ばれる職人技の極みについて詳しく教えてください
一般的に「切れ味の良さ」と「研ぎやすさ」は相反する要素です。硬度を上げれば切れ味は向上しますが、研ぎ直しが難しくなる。研ぎやすさを優先すると、硬度が下がり切れ味が落ちてしまう。私たちはこの相反する相関性を、職人の長年にわたる経験と最新の技術で高い次元で両立させることに成功しました。
また、プロの料理人は、食材を切って口に入れたときの“風味の広がり”を大切にします。ただ刃が切れるだけでは、食材本来の香りや旨味を最大限に引き出すことはできません。
だからこそ堺包丁は「切れ味」と「食材の細胞を壊さない切り口」に徹底的にこだわり、風味を損なわず素材のおいしさを際立たせます。肉・野菜・魚・果物……どの食材もまるで生き返ったかのように、その持ち味を余すところなく実感できるのが、高橋楠の包丁なのです。
また、G7大阪・堺貿易大臣会合の記念品に選定された包丁では、柄には抗菌性を持つ青森ヒバ、口輪には人々がなじみの深い人工大理石を採用しています。耐久性と安全性を担保しながら、プロの現場でも家庭でも使いやすい仕様を実現。アウトドアや釣りなど幅広いシーンで使えるよう、ペティナイフや三徳包丁には専用の鞘もご用意するなど、一つひとつが「職人が時間をかけて丁寧に手作りする、至極の一本」なのです。
ーー高橋楠が注力している、“科学的アプローチによる伝統の継承”とは?
伝統産業である堺打刃物が直面する最大の壁は、「弟子入りしても厳しい仕事環境に耐え切れず、途中で離脱してしまう若手職人が多い」という現実です。名鍛冶師の技術は経験則に頼る部分が大きく、指導にも長い年月と膨大な工数を要します。結果として、師匠が弟子を受け入れたがらない事情にもつながっています。
そこで私たちは、「伝統手法への科学的アプローチ」というテーマに挑みました。
具体的には
・堀場製作所様やNEC様と共同で、鍛冶師の熱処理を定量化
・IT技術を活用し、職人が一人前になるまでの期間を大幅短縮
・分業制を見直し、一貫生産体制を整備する工場を設立(2023年4月より稼働開始)
など、鍛冶→刃付け→柄付けの各工程を従来の分業から統合し、“可視化”と“効率化”を同時に実現。目指すのは、「科学的なデータをもとに短期間で職人を育て、後継者不足を解消する仕組みづくり」です。
ーー高橋楠の目指す未来は “三方よし” 詳しくお聞かせください!
600年の歴史をもつ「堺打刃物の技術」をただ守るだけではなく、時代に合った新たなものづくりの在り方を追求している私たち。「本物の堺包丁づくり」を次の世代につなぐために、私たちはまだまだ挑戦の途中です。
職人一人ひとりに潤いを与え、その技術を次代へと確実につなげる──それが、高橋楠が目指す「業界内の好循環」。また、市場全体では使い手(料理人や一般消費者)の声を製品開発に反映し続けることで、他社には真似できない独自性を生み出したいーー。職人・会社・社会、すべてが笑顔になる“Win-Win-Win”の仕組みを築き、伝統と近代化を融合させた堺打刃物の新しい未来を今後も切り拓いてまいります。
伝統的な技術を学び、科学的な視点で“ものづくり”に取り組みたい方、自ら考え、チームで課題解決を進められる方、そして何より「世界中の食文化を前進させたい」と心から願う方は、ぜひ、私たちと一緒に“伝統と近代化が融合した新時代の包丁づくり”に取り組みませんか?
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご応募お待ちております!